細長い首、小麦色にほどよく焼けた肌、クビレのあるボディ

久しぶりの再会。何ヶ月、いや何年ぶりだろう・・・。コンピレーションアルバムを聴いている最中の出来事だった。普段、音楽を聴いている時には聞こえない玄関のチャイムがなぜかそのときだけは聞こえた。鳴ったような気がしたという方が正確だろうか。確認しに外へ出ると、そこには・・・。何の知らせもなく突然私の前に現れた。あまりにも予期せぬことだったのでついつい呆気にとられてしまった。
「はーぃ・・・」
私は最後までそう言うことができなかった。途中で言葉が詰まってしまった。
「・・・・」
しばらく何を話すでもなく、ぼーんやりして、じーっとその面構えを見ていたんだが、だんだん私は、やっと自分の元へと舞い戻ってきた天使に喜びを感じるようになった。その天使の姿を上から下まで舐めるように見て愕然とする。
「嗚呼、なんて無惨な格好をしているんだ!酷く汚れた身なりをしているではないか!いったいどうしたんだ?」
「・・・・。」
「いや、もうそんな事はどうでもいい、とにかく俺が何とかしてやる。」
そう言って部屋の中へと入れて、洗面所から石鹸とタオルを持ち出し、薄汚れた体を綺麗にした。
「いつ見ても、とってもしなやかなフォルムだ。」
見た目はどちらかと言えばややゴツゴツとして硬そうなのだが、触れてみると実はとっても柔らかい。何の相談もなく無言で私の前から去って以来、見かける事はあっても相手をする事はなかった。変なプライドが邪魔をして・・・。長いこと何もアクションを起こさなかったせいか、はじめは冷たくツンとした態度をしていた。
「これも変なプライドなんだろうな。」
でもやはり相手してもらえないと寂しいのか、こっちがアレコレして温めてやったらとたんにこちらになびいてくる。まずはギュッと抱きしめてやるんだ。体に熱を感じるようになったら首を温めてやる。そのままあちこちをさすってやって、離れる。冷えてきたらまた温める。これを繰り返していたのだが、そのうちに、だんだんと離れる時間が短くなった。それに伴って、自分の体が熱くなってきているのを感じ、自然と手にも力が入る。その微妙な力加減によってレスポンスが変化している事に気がつく。その瞬間、
「俺は今、お前を支配しているんだ!」
そういう意識を持ち始めるんだ。でもしばらく経つとそういう意識は忘却の彼方へと押し遣られ、何も考えずにただひたすら体を動かしている自分に、ふと気がつくんだ。
「俺は支配されている?」
そう、自分をコントロールする力が失われるほどまで夢中にさせられていたのだ。しかし、そんなことにはお構いなしで、ひたすら自分の体のあちこちをひっきりなしに動かして悦楽を感じている私。
「俺は支配されているんだ!」
そう思うと余計に感じる。
「この感じをいつまでも味わっていたい」
そう思った矢先、だんだんと反応が鈍くなっていく。そして先ほど感じたものがだんだん感じられなくなっていく。
「なぜだ?こうすれば・・・」
それでもあのときのふわりと浮いていくような感覚は得られない。
「ならば・・・」
試せば試すほど相手の反応は鈍くなっていき、自分の感触が悪くなっていく事に気がつく。
「もうアノ快感は得られないのだろうか・・・」
ふと不安がよぎる。
「だがアノ快感はほかでは味わえなかった。」
もう一度トライするも来ない。仕方なくここで一旦休むことにした。私はタバコをくわえながら、なぜアノ感覚が来ないのか、それは再会してすぐの事だったからなのか、近頃触れることがなく、久しぶりに触れたのが私の元を去りしものだったからなのか、刹那的なものだからなのか、しばらく考え込んでいたが結論は出ない。むしろ、何がなんでももう一度味わいたいという欲望に取り憑かれてしまう。そして話を切り出した。
「またどこかへ行ってしまうのか?ずっとそばにいてくれ!また離ればなれになってしまったらいつ私の元に戻ってくるかわからない。もうどこにも行かないでくれ!」
泣きすがるしかなかった。ここに至って、そう、もうアナタなしでは私は生きていられない、と自覚したのだった。
「いなくなれば人生の楽しみの大半を失ってしまう・・・この心が満たされる感じ。宙に浮いていくアノ快感。待っていたんだ、この悦びを感じられる瞬間を!」
「・・・・・」
返事がない。沈黙が1時間ほど続いた後、すくっと立ち上がり、「ありがとう」という言葉を残してまたどこかへふらふらと行ってしまった。